叶わない愛なんて知らない(カフスボタンが落ちた砂浜で)/秋葉竹
女の声が
風に乗って
耳まで運ばれ
風に乗って
遠ざかって行く
ふと、
呪いかと聞き違えるほどのその声は
ただ
だれかの愛を求めたかつての鬼女の
血を吐く祈りの結晶を削りとる、
そんな
みっともない掠れ声
そこに残された恋人は
残像さえも、残さずに
風に吹かれて消え去る幻
幻の夜、
幻の人を求めたかつてのあたしの場合、
叶わない夢に打ちのめされた
びしょ濡れの異邦人の顔をして
ただ咳をする
棒立ちの影のくせに
無力な純情のくせに
叶わない愛なんて
知らない、って言ってる
そして
慰めの夜はしずかに更け行き
やさしい表情になる新しい明日が
神さまの許しのもとから始まるのだろう
神さまは
叶わない愛なんて知らない、
って言ってたんだから
戻る 編 削 Point(9)