口外しては/こたきひろし
口を裂かれても言えない事はある
もし
口が裂けたら言える筈はないのだが
時間はさかのぼる
空間は移動した
時代は戦争に飲み込まれていた
侵略と略奪
無慈悲な殺戮と暴力
殺されるか
殺して生き延びるかの極限だった
兵士は地面を這いつくばった
這いつくばりながら銃をかまえた
草も木も戦火の犠牲になった
蛇や動物は兵士の飢餓を癒やした
村は襲われた
死んだ兵士も生き返り
戦争犯罪に加担した
放火した
略奪した
暴行した
虐殺した
レイプした
神は傍観していた
俺の父親は関東軍の上等兵だった
叔父は南方の島で玉砕して死んだ
父親は生きて返り
戦争について
一切語らなかった
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