空白の森/安部行人
 
街路図には
方位が記されていないので
正しい道順はもうわからない


人影のないアーケイドを逆順に進めば
三番街と一番街のあいだに
二番街がない


封鎖された地下通路から
川底をくぐって対岸へ渡れば
枯死した塔たちが彼方まで並び
そのあいだに風がある


雨が降る――燃える雨が
消え去りつつあるものたちの上に降る
かつてのぼくらは
見えない二番街へ行ってしまった


塔と塔、そのあいだのいびつな隙間が
いまここにあるぼくらのためのやどりぎ、空白の森。
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