こびない/武下愛
 
はこびなさいとおそわった。つたえなさいとおそわった。でも、ほんとうにしたかったことではなかった。(いきるためにぎせいにしていいものなど、どこにもありはしない。)そのためについやしたつきひだけが、かなしみを、つれてくる。ぼくはむりょくだよ。なにもみつからないよ。なにもみつけないよ。もういいでしょっておもった。もういいでしょって。つたえないで、きえてった。きえてったら、よかったものだけが、くすぶっている。だから、もういいよねってにがむしをかみつぶしながら、わらったのは、どうしても、わらってほしかったのだけど、つたえるすべが、ことばしかないことに、とてつもなく、ひへいしてしまっている。いつかみた、そらは、ただきれいに、おちつづけることを、おしえるのだけど。ぼくには、おちつづけるゆうきもないのだとかがみをみる。ぼくはもう、ぼくですらなくなった。こころのこえはきこえてるのに、てをのばしても、とどかないって、おもってる。きずつけることも、きずつくことも、もう。いやだよ。なみだはかわいたはずなのに、ほおはいっこうに、かわいてくれない。くれない。
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