果たして私は誰ですか/こたきひろし
 
出口のない部屋に閉じ籠められて
私は腐敗してしまいそうだ

流浪の眼では
天井を突き破れないから
大腿骨の壊死した足では立ち上がれない

天界は遥か彼方
黄泉の国で待っている人の
すすり泣く涙がその内垂れて来るだろう

古き里の
炎天には立ち上る入道雲
細くて妖しい道には
陽炎が揺れている

その道が断絶する辺りに
井戸があって周囲には夏草が生い茂っていた

老婆の後をついて歩いた幼年の私の耳には
たえず幻聴が聞こえていた

流れる川の水の音
みんみん蝉は気がふれて
河原から墓石を拾う男が
私の父親だった
に違いなかった

入り口のない部屋の窓から
悪寒に震える私の思考は
虚無でしかなかった

果たして私は誰ですか

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