送春の詩集/長崎螢太
防波堤に打ち付ける、波
全てをさらっていく
泡沫が少し、澱みに残るだけ
日がやけに低い昼下がり
人の姿もなく
旅の友は、おねだり上手なカモメ
行先不明の私は
いつだって
迷っている旅人だった
ポツリと、雨
細く長い警笛、かすかに
雲と、雲の間から見える青空
そこに伸びていく飛行機雲は
何処へ向かうのか
私の限界点を超えていけ
静かに祈ってる
ふたり腰掛け座席に、一人で座り
詩を想う
私たちが紡ぐ詩集には
吐き出したいくつもの誤解が
歪曲されて載せられて、危うくて
その存在を肯定しても
なんとも、ならないから
灰色の瞳を透明にして
窓の遠くを眺める
夜汽車、想いが
月が欠けた夜空に、幾千層に纏う
産まれなかった詩片は
早すぎた蛍のように
弱々しく瞬いて、消えて
だから、送春の今
私たちは
終点から旅立つ準備を
するのだろう
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