赤い本、赤い町/阪井マチ
 
 私がその古道具屋を出てから間もなく、注文した本が自宅に届いたと知らせがあった。その本は鍋料理のレシピ本であり、失踪した料理研究家の最後の著書だという。料理は普段ほとんどしないのだが、表紙に載っているチゲ鍋の写真が妙に美味しそうでついつい買ってしまった。こういった買い物をするのは私にとって珍しいことではなく、部屋中の至る所に開きもしていない本が山積みになっている。昔、人から逃げるときに引き払ったアパートの部屋にも同じような山が何個もできていたが、今となってはそのうちの一冊すらも題名を思い出せない。その程度の思い出を積み重ねるために人生の大半と毎日の集中力を費やしてきた。それを空しいと思うことは滅多
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