文字や言葉メ/ツノル
 
景色を眺めていた。
季節ごとに色を替える山々はけっして動かない。いや、動いている。気づけないだけで実は少しづつ大地とともに動いているではないか。同じようにすべての物事には力が働きかけているのだ。
この車にも名称はある。街でも多く見かける人気のある車だ。
人々は少しでも手間を省こうと屋上の駐車場には停めないが、眺める雄大な景色と潮味を引き連れた浜風が、わたしにはたまらなく快感に覚えてしまう。
さあ、これから夕飯の買い物だ。
言葉にもならない風を、おもいきり吸い込んでは吐いた。
一応黒い財布の中身を確かてみる。お札は足りるだけちゃんと収まっていた。
扉を開け階段を少し降りたところで身なりの派手な女性とすれ違う。
見た目の年齢にしてはかなり短めのスカートだ。ブランド物の黒いバッグを抱えヒールの底から薔薇の薫りが漂ってくる。
流し目で、互いにちらりと視線を交わした。
自分を売って何がわるい。
わるいのは、後始末で味わうことになる。その気持ちの持ち方だろう。
文字や言葉だけでは売り物にもならない。
独り言があたまを巡り、颯爽と階段を降りて行った。






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