緑の地獄/中原 那由多
 
掻き毟り
痛い

左手は首を抑え込み
ぬめりを帯びた背中からは
潰れた蝉の抜け殻の破片に
くすぐられているかのような
歯痒い感触と共に
赤い棘が生えてくる

(四秒間の沈黙)

心臓が、飛び出す

心臓が、飛び出す

急所への一撃
膝から崩れ落ちながら
直立不動の本音へ向けて
負け惜しみ

心臓が、飛び出す

心臓が、飛び出す

心臓は、飛び出さないから
緑の地獄で右往左往
目を瞑ったまま
音の鳴る方へ行けば

ーーー落雷

その先に吹く風からは
春の匂いがする
戻る   Point(1)