女の名前は恵美と言った/こたきひろし
 
年の歳月がかかった。
いわゆる戦後の混乱期で食料不足と貧困に大半の国民が苦しんでいた。

父親は戦時中に亜細亜大陸に出征した。召集令状でお国に持っていかれた一兵隊だった。無事に生還を果たしてくれたからKは生まれる事ができた。

kは五人の子供の最後に生まれたが、父親に対して甘えた気持ちを抱いた事はなかった。
父親は戦争の地で果たして何人を殺したか?
生還と引き換えに?
その疑問がいつもKの心に燻って消えなかった。
が、それはけして訊いてはいけない事と子供心にKはわかっていた。
そして父親の口から戦争が語られる事は一度もなかった。

戦地から生還した男はその遺伝子を一人の女の
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