天変も大地の異変もなくて/こたきひろし
とは言えず、脆い影が絶えず不安を煽りたてていたからだった。
自分の仕事に対する能力は低く意識もけして高くはなかった。
職場の環境も人間関係も厳しく、果たしてそれについて行けるか、いつなんどき振り落とされるかわからないのが実情だった。
高校を卒業してから、十五年続けた飲食店の厨房の調理の仕事をあっさりと捨てた。
転居して新たに選んだ仕事は工場内の作業だったが、それはあまりにも危険で無謀な賭けだったのだ。
その歪みに俺の仕事人生は一変に奈落の底に落とされたと言って過言ではなかった。
その内に妻に生理が来なくなったと告げられた。
妻は感激し喜んでいて、俺も表面ではそれに合わせたが内心は激しく揺れた。
正に天変と大地の異変が起きたに等しかったのだ。
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