生きてゆく/坂本瞳子
意地の悪いことを言ってみたりする
目的なんてないけれど
自分の本当のキモチを分かりもせず
とりあえず言ってみる
楽しくなんてない
まったくない
ほかになんと言ったらいいのか
言葉が見当たらない
笑顔を見せられないから会えない
声が震えそうだから電話に出ない
声が震えるのは
怒っているからでも嫌っているからでもなく
想いをうまく伝えらなくて緊張しそうだから
かもしれない
素直になれない
正直になれない
自己嫌悪が蓄積されてゆく
この暗闇はとどまるところを知らず
ただ広がってゆく
歯止めが効かなくなる
助けを求めてみたくなる
そんなときに隣人はいない
手を伸ばしても
足を伸ばしても
空回りして転げ落ちていく
どこまでもどこまでも
沈んでいく
冷たい海の底で目を覚まし
ああ夢でよかったと勘違いをして
現実の辛酸を舐めてみる
それでも生きていて
血潮を感じ
息吹を鼓動を力強く感じ
自らの生命を抱きしめて
明日へと向かって
転げ落ちていくことも厭わず
力を振り絞って
生きてゆく
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