卒業/R
、モネ好きのマダムを身軽にさせる池の隅、
綿毛に覆われた水面はミシン油のように静かだったから、
あの池の澱も何かを愛しくさせてくれるのだろうか。
私は池の底をまさぐるように、
ミシンの中を拭う。
油まみれの曲がった針を拾い集め、
すっかり空になったそこへまっさらな油を、
安らいだ赤ん坊の心臓のように、
トク トク トク
、と
鳴らし注いだ。
ふと、
命を注いでいるような、
神にでもなったような、
気が、して
忘れかけていた人間らしさを思い出す。
ぽたりと
溢れはしなかったけれど。
思いきりペダルを踏み全力で走らせると、
冬の唸りが誰かのトワルだった布切れにしみこみ、
いつかラットを失血死させた手触りを思い出させて、
それも悪くない、
なんて笑いあったっけ、ねえ。
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