最終電車/石村
い じゆうぶんだ
なくしたものは もうなにもない
さあ かへらう
わたしはまたくるりと向き直り
姉さんの銀のかんざしを
さいしよの点に突きさす
わたしをとりまく黒い風船はみるみる縮んで
かんざしの先に吸ひ込まれ
水色の春のそらが頭上にふくらみ
波がゆするボートの上で
わたしは潮の香を嗅いだ
まだ日は暮れてない
浜辺へ戻らう 駅へ急がう
最終電車に遅れないやうに
姉さんにかんざしをかへしに
とうにほろびてゐる
春の日のまちに
(二〇一七年二月十六日)
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