エナガのうた/Wasabi
 
信じ、繰り返しうたう言葉くらいは、明るく元気が出るものにしようよ。そんな小さなルールが尊いと、今さらながら気づいたの。くりかえす言葉のなかに言霊が宿るなら、暗く不穏な言葉がそだつのは悲しい。
本当に悲しい言葉に囲まれてしまった鳥は、明るい声でしか鳴けない。それを心の底からもっとも必要としているのもまた自分自身だから。
ルリビタキさんはそれを教えるために、自分は唄いたくもない哀しいうたを、あえて聞かせてくれたのかも。

これから先もルリビタキさんに会うことはないかもしれない。そもそも、あの哀しい声の主は違う鳥さんだったのかもしれない。でもわたしは、これからもあの雑木林に足を運ぶ。そして、きれいな声でくりかえし唄ってみたい。蜜のたくさんつまった、ささやかだけど元気の出るうたを。もうすぐ達ちゃんが学校から帰ってくる。わたしは急ぐように羽をひろげて、ゆっくりと伸びをした。





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