思い出/田中修子
「モラトリアム」
貝殻の中で
海の響きに耳を澄ませていた
澱んだ温かさの中で
海の響きは一筋の救いのよう
澱んだ温かさの中で
貝殻の砕ける日を待っていた
「白い影」
多くの白い影が
すり抜けていく
流れの中で
みあげて
空の青と 雲もまた
すり抜けていき
全てが私を置いて
より良い方向へ向かおうと
視線を真っすぐにしている中で
ひとり立ちすくみ
風が吹き
雲も
白い影も
去って
「片想い」
まわる扇風機の網の中に手を突っ込んだように
割れる指の皮膚のように
[次のページ]
戻る 編 削 Point(6)