思い出/田中修子
 
「モラトリアム」

貝殻の中で

海の響きに耳を澄ませていた

澱んだ温かさの中で

海の響きは一筋の救いのよう

澱んだ温かさの中で

貝殻の砕ける日を待っていた


「白い影」

多くの白い影が
すり抜けていく
流れの中で
みあげて
空の青と 雲もまた
すり抜けていき
全てが私を置いて
より良い方向へ向かおうと
視線を真っすぐにしている中で

ひとり立ちすくみ

風が吹き
雲も
白い影も
去って


「片想い」


まわる扇風機の網の中に手を突っ込んだように
割れる指の皮膚のように
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