さよならフォルマッジョ/帆場蔵人
 
ーズを転がし奪い合う、祭りだ
祭りには生け贄がいるんだ、この手紙に
書かれていたなにがしかの想いを捧げたら
生け贄にはならないか、血も所望?
安いチリ産ワインで許してくれよ

アルコールとは手を切って真っ当な
人生を歩みたかった、おまえが好きな
もの、たくさん教えてくれよ、また会おう
あの映画、朝日会館のアジア映画祭で観た
映画のタイトル、わすれたから、教えてくれ

真夜中のティータイム
向かいあうあなた
眠っているちいさな吐息
暖かな茶の薫りに満たされた
胸から吐息とともに言葉が
だれに向かうというわけもなく
あふれてあなたが拾いあげて
それを胸にしまっていく
また静けさが降りてきた

戸棚のなかはすっかり、がらんとして
余所余所しくハッカの香りがする
白いもの、ぼくはぷちり、と潰した
ゆび先を舐めてフォルマッジョとつぶやく
外国人の友人はいないから、さよならだ
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