愚か者/メープルコート
 

 色鮮やかな喧騒の街で僕は一人不安を抱えていた。
 あらゆる期待は裏切られ、西も東もわからない。
 不幸の面倒を自分一人で抱えているような錯覚。
 これ以上は無理と分かっていても心のどこかに居座る期待。

 期待は全て他任せだが、希望は自分で耕すものだ。
 希望を持つ事を止めないのは時に愚かな頑固さだ。
 夢を語れるのは心がほんの少しでも豊かな証拠。
 今の僕にはそれが出来ない。

 深く息を吸い込んで、人波に揉まれながら、喫茶店に入る。
 全ての穢れた匂いから解放される瞬間。
 一つの逃げに、また一つ不安が重なった。

 逃げてはだめだ。
 分かっているはずなのに。。
 幸福はいつだって見えない所に宿るって事を。
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