時の経過を待っていたから/こたきひろし
一人にたった一つしか持たされていなかった
それを
いつかは黄泉の国に落としていまうとわかっていても
一分でも一秒でも長く持っていたいのは
誰しも切に願う事
名を呼んだけれど応答がなかった
無理もない
私と血と肉を分けあっていたその人は
眠るように死んでいたのだから
その
幸福を満面に表したとしか思えない死に顔の裏側には
彼女が生きていた間の苦悩と悲しみが有ると
私を含めて皆が知っていた
彼女の顔は透き通り
化粧が施されていた
その安らかな死に顔は
本当はずっとこの日が来るのを待っていたに違いなかった
彼女の
脳内の血管が切れて半身が麻痺した十年の歳月
姉と弟の
他愛ない誤解と確執がなぜかうまれて
その間私は姉と一度も会うことはなかった
十年後の再会
全ては洗い流された
この次は黄泉の国で会うしかないと
冷静にとても冷静に思ってしまった私は
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