秘め事/メープルコート
雪を降らせるつもりの寒空の下、
点る街灯に人々の影は歩いてゆく。
悲しみ溢れたその光景はとても虚しい。
街角に佇む人の生がぼやけて見える。
すべての信号が赤になったその瞬間、
私はどこに向かって歩き出せばよいのだろう。
四方を見えない壁に塞がれて・・・(人にはそれが見えないのか)、
コートを羽織った顔のない人達の流れが澱んだ川のように。
一日の幕が下りようとする湿った時刻、
私は一人信号が青に変わっても動けないでいた。
目の前の寂びれた喫茶店からドビュッシーの「夢」が聴こえる。
ちょっとした気遣い一つで人々は笑顔になれるのに。
辺りが次第に暗くなってきて、街灯が煌々と輝きを増してくる。
とにかく私は歩き出さなくてはならない。
明日の為に。過去の思い出の為に。未来の希望の為に。
夢だけが生に実感を与えてくれる。
そのうちこの街も静まり返るのだろう。
その中で私は一日の生を取り戻すだろう。
気が付けば街には雪が舞っている。
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