さかなひとり/卯月とわ子
この水槽は
他と比べたら広いものなのだろう
けれど
この限られた自由の中で
泳ぎ回る僕は悲しい
美しい姿をしていても
僕は水が無ければ生きていけない魚で
君の目を楽しませても
それは永遠じゃない
君のくれたこの水槽と云う自由の中で
僕は何も知らないフリをして泳ぎ回る
もうこれ以上大きくは成れないから
これ以上大きな水槽を望む事は出来なくて
君はあと数十分もすれば僕に飽きるだろう
娯楽が溢れかえるこの部屋では
君を引き留めておけるのなんてその程度さ
与えられた自由なんて
僕が選択したものではないのだから
満足なんてあるわけないさ
それでも僕は綺麗な鱗を持つ魚だから
ここで泳いでいるしかないんだ
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