嘘は方便だから/こたきひろし
ぐみたいにキスをしてくるから
私の欲望は躊躇いなく舌を彼女の口に挿し込み
お互いがその唾液を絡ませたんだ
なんて時代もあったような
なかったような
男と女の関係は四年で飽きが来るらしい
そこから先は砂漠になるらしい
お互いが好きだった筈の
お互いの匂いが
ただの悪臭になり
鼻を摘まみたくなるらしい
若い頃に書いてしまった彼女を思う詩なんて
味噌汁の具にもならないから
廃棄してかまわないだろう
だけどラブレターは棄てるに忍びないだろうから
引き出しの奥へ奥へ
そして
男と女から
夫婦になり
夫婦から家族になって
やがて
真実の愛情が昇る朝日のようにありがたく輝いてきたら
それでエエじゃないかエエじゃないか
なんて幸福にたどり着けても
それはそれで問題がうまれるだろう
愛情は均等に公平に切り分けられないから
何の不満なくお皿に盛り付けるのは
やっぱり難しいから
そこに
必要なんだよ
嘘と言う方便が
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