ただ赤く塗り潰して/ホロウ・シカエルボク
 

午後を通り過ぎた影、踏みしだかれた詩文、血溜りのなかの指先、白紙のままの便箋、風が息継ぎをするときに聞こえる嗚咽は誰のものだったのか、忘れたことにした記憶が膿んだ傷のようにじくじくと抉り続ける理由はどこにあるのか、割れた鼻骨は人相を少しだけ不穏なものに変えるだろう、目玉に映るものだけに翻弄される連中の間では面倒な思いをすることになるだろう、彼らはどんな悟りも学びも与えてくれることはないだろう、固く結ばれた木箱の紐を解け、閉じられたものの曰くは失われた方が自由になれる、たとえそこにどんな代償が課せられようともだ、乾いた皮膚に浮かぶひとつひとつの細胞の輪郭は死を連想させる、それについて考える事なん
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