夢はけして薔薇色じゃないさ/こたきひろし
まだ娘二人が幼かった頃に
貸借の棲みかを出て建て売り一戸建てに引っ越した
借金して手に入れた家は
この俺の人生を地獄のローンレンジャーにしてくれた
サイコー
な訳がない
だからと言って
サイテーと言うわけでもない
夢はけして薔薇色じゃないって事に
よくよく気づいただけさ
貸借の時にあった生活の余裕が
いっぺんに吹き飛んでしまったんだ
新築の家は
いい匂いがしたけれど
そこから始まる俺の未来には
悪臭の気配が漂っていた
三人目を作るなんてもうあり得ない
そうならないように
夫婦は予防した
引っ越して何日目かに
近所の若い奥さんに声をかけられた
見覚えのある顔だった
以前はよく行っていた薬局の店員さんだった
あれっ誰かと思えばよく店に買いに来てくれたお客さんね。
と言った後に
「最近は他で買ってるのかなコンドーム」
と周りにはばかる様子なく聞かれたのには
返す言葉がなかった
戻る 編 削 Point(3)