「ままごと」/桐ヶ谷忍
 
母がこどもの手を引いて、楽しそうにスーパーで買い物をしている。
こどもは無機質な笑顔をはりつけて、母に引きずり回されている。
(おかあさんその子は)
(人形だよ)

結婚して家を出てから、母がおかしくなったと聞いていた。
人形を私の名で呼び、片時も離さなくなったと。
渋々実家に帰ってみれば、母は今買い物に行ったばかりだという。
その目で母の様子を確認してくれと、やつれた父が言う。
そして。
見たことのない笑顔の母がいた。

おぞましいほど干渉してくるか、全く無視するかの両極端だった母が怖く
実家を出てようやく呼吸が楽になった。
のに、人形を抱き上げ、母はなにごとか話しか
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