肉体のサイレン/ホロウ・シカエルボク
なかった、そうしたことのいっさいを、俺はなにも知らなかった、だからこうしているのだ、だからこうして横たわって―天井が回り始める、いつかそんな歌を聴いたことがあったなとぼんやりと考えるけれど、おそらくその歌を思い出すことは二度とないだろう、俺の輪郭はあやふやになり、トッカータはフェイド・アウトする、そうしてもうじきこの味気ないベッドは、まるで俺という存在のすべてを飲み込んだみたいにあっけらかんとまた白いシーツを次の住人のためにピーンとはって見せるだろう…。
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