ちひさな国/石村
おとぎ話の中の国は もう
わたしのことをおぼえてゐません
キセルをくはへたお爺さんは もう
わたしのことをおぼえてゐません
アコーディオンをかかへた青年と
まきばで働くやさしい娘さんは もう
わたしのことをおぼえてゐません
とんぼをとりに行つたこどもたち
巣穴にひそんでゐる野うさぎたち
婚礼の準備をしてゐる村びとたち
おだやかな風がふく ちひさな国は
もう
だれのこともおぼえてゐません
布張りの本の手ざはりは いつも
あたたかでした
その本は もう ひらかれません
よごれた星にすむ わたしたちみんな
わすれられてしまつたから
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