喉の渇き。/梓ゆい
 
退院直後父は湯呑を差し出して
「あと少しだけ、水が飲みたい。」と
看護師の母と妹に言った。

手の震えを抑えつつ
湯呑を落とさぬよう
中々力の入らない両手に
ありったけの力を込めて。

「お父さんダメだよ。お医者さんから言われているでしょ?」

妹のなだめた一言で
寂しそうに俯きながら
湯呑をテーブルに置く姿を思い出した通夜の晩
「出来る事なら、お水を飲ませてあげたかった。」と
妹は涙声で母に言った。




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