村の記憶/帆場蔵人
餌をつけた針をゆらり
次の瞬間に竿はしなり針は
川面に静かに滑り込む
じいちゃんのとなりに座ってぼくはみていた
それから黙って手渡された竿を手に川面を
じっ、とみつめていたんだ、じいちゃんは
黙ってそんなぼくをみていた、とても静か
六畳の和室で祖父は寝ている
寝ていたかと思えば、叫びだす
祖母のなだめる声もとどかない
痛いのか、なにか嫌な夢をみたのか
腹が減ったのか、便所かもしれない
言葉にはならない、叫び
支離滅裂な言葉たち、叫び
寿司に毒が入っていると、叫び
かたわらに座り
振り回される手を握れば、爪が手にくい込んで、胸に食い込ん
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