皇墜/高原漣
狭い狭い座席に押し込まれている
にらみつける視線の先で計器盤にひしめき合うメータが囀る
昼、透き通った天蓋は憎たらしいほど美しく蒼い空を見せつける
悪意ある小宇宙だ、ここは
凍砂辺の果から南溟辺の弥終まで
燃料のつづく限りに飛ぶ
そのうち、朱の珠がどこかに消えてしまう
海、ひたすらに黒い
夜光虫の光、上も下もない(天上は不気味なまでに星星がさんざめく)
広い広い虚空だ
単調な爆音の調べ、甘辛いガソリン臭がただよう
歌は聞こえない
意味など、とうの昔に喪われ
ただ皇(やつ)を墜とすためだけに
おれは征く
※凍砂辺、南溟辺
辺…國の意味。
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