記憶にかからない橋に/こたきひろし
桜並木が校庭を一周していたわけではなかったのかもしれません だけど桜並木に咲く花などどうでも構いません
確かに彼の記憶は水分を失い干からびていました
全ては不確かな世界のぼんやりとした景色だったのです
校庭の隅に遊具がありました 遊具の近くに砂場があってその先に鉄棒がありました
校舎は木造のかなり古い建物で雨が降ると雨漏りがしました
彼は記憶の鉛筆でぼんやりと佇む景色を遠くに眺めながらスケッチを始めてしまいました
彼女は十一歳であったかもしれません 名前は覚えてません 軋む廊下を向こうから駆けてきました
慌てている様子でした 彼女は白いスカートをはいていました そのスカー
[次のページ]
戻る 編 削 Point(2)