空白/言狐
 
満月が夜にふんわりと浮かんでいる。
それは、輝いているというより
黒く塗りつぶされたキャンバスに一点、塗りつぶされていないところがあるような、そんな空白に見える。

世界の明るさから逃げて、夜道を歩く僕にとってそれは唯一綺麗だと思える白さかもしれなかった。
なにもかも如何でもよくなって、歩くこの道を静かに見下ろす空白。

「生きたい」と「死にたい」の間をふらつきながら、右手にもったワンカップを舐めた。

ふと、空を仰ぐ。

なにもない僕の居場所はもしかしたらあそこにあるのかもしれない、なんて考えが夜空の点に溶けた。

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