歩み/葉leaf
めて包まれていた。
硬い矢が放たれて緩い放物線に身をゆだねている。女は幻想の矢に追われるように、日々情報の確執の中でもがいていた。女は太陽が自分を呼ぶ声や、風が自分を誉めそやす声がひとつも聞こえなかった。
システムやネットワークは津々浦々へ張り巡らされた。男は経済のネットワークに組み込まれて労働し、人間関係のシステムの中で生活し、出版の流通網において執筆した。それぞれが重なり合う円環を高速で回転し続けること。
肉体を知るためにまず精神を知る必要があった。だが肉体を呼び起こすものは精神ではなかった。男と女は廃病院の待合室で出会った。いつまでも呼ばれない待合室、診察券は塵と化す待合室で。男と女は互いの健康を治療し合う必要があった。
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