日々/帆場蔵人
 
そのころの
ぼくの悲しみは
保健所に連れて行かれる猫を
救えなかったことで、ぼくの絶望は
その理由が彼女が猫は嫌いだからという
自分というものの無さだった
ぼくの諦めはその翌日も同じように
珈琲を淹れて楽しみ美味いと感じたことで
ぼくの希望は生きている
ということしかなかった
色褪せたベンチに座る目やに汚れ
襤褸を着た年寄りより
若いということ
ただただそれだけだった
だからボートを盗んだ日
沖に出てすぐの小島のまえで、汗だくで
自分たちの限界を見せつけられたとき
ぼくらが共有した波が重なりあう
きらめきも、そらの深さも
忘れたくなかった、けれど
色褪せたベ
[次のページ]
戻る   Point(4)