月精(あるいは湿原精)/本田憲嵩
 
び跳ねる水銀色の魚たち。躍動する生命たちの煌き。あるいは月の欠片のような迸り。しだいに間断なく跳ねまわってゆく――


そうして辿りつく。魚たちのオルガズムはついに頂点に達する。


その両生類のように暗く湿った彼女の狭い股間。黒い陰毛の換わりには粘性の暗い苔がびっしりと其処に繁茂していて、むしろ彼女の夜の奥の奥、彼女の毛深い陰部そのものであるものは、まさに此処、この黒い湿原そのものである。
不意に鈍行列車の汽笛が夜空たかく鳴りひびく。レールを滑ってゆく車輪の音と葉のざわめきが静かな伴奏のようにながくながく響きわたる。それを合図として、湿原の咽せ返るような芳香は濃い霧と結晶して、銀に輝く月はその織りなされた神秘のヴェールを棚引かせてゆく。


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