月精(あるいは湿原精)/本田憲嵩
――逆さまに曝された流線型の細ながい肢体。澄んだ水面の白い後ろ影は揺れる。世界でも有数の赤い夕陽は沈んだ。そののちに訪れる、この心地よい夜の冷ややかさ。その臀部の心地よいなめらかさ。そよぐ枝葉のように質感のある濡れた黒髪にも、水の星星は灯る。君という樹木の体幹。透明な空気はその間げきを穏やかに穏やかに吹き抜けてゆく。
ただの一度としてついぞ開かれることのなかったとされている、その旧い水門、その錆びた重い鉄扉がついに開くとき、うっとりと揺蕩うように誘いながら、蛇のようにくねりながら、蛇行する水の断面もまた、その月影宿した、球根型の見事な臀部に、どこまでもどこまでも纏わりついてゆく。たびたびに飛び跳
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