夜道 〜19:03 応答せず〜/帆場蔵人
ガラスケースの中には
成人を迎えた晴れ着姿の女や
子どもを抱いた夫婦、百歳を
迎えた女の満面の笑み
とぼとぼ、夜を歩けば
冷やかな風が問いかけてくる
その顔はなぜ、俯いているのかと
ひとりの男が逝ったからだ
だれかの父が去ったからだ
だれかの夫が息を止めたからだ
だれかの息子が還ったからだ
ガラスケースの中、人生はあの人が
去る前にも後にも続いていき、彼の
手がそれに触れることは、もうない
とぼとぼ、夜を歩けば
冷やかな風が肩をあててくる
お前はその男のことなど
昨日の今頃は気にもして
いなかったじゃないかと
耳元で囁いては去ってゆく
俯くこ
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