耳鳴りの羽音/帆場蔵人
 
より甘く、焦げた
トーストみたいなぼくは
いつもそれを求めていた

蜂になりたい
なんのため?

こころから飛び出した手、だれかの
こころ、触れたい、花から花へと
いくら蜜を持ち帰っても触れられない
こころに触れたい、この硝子戸よりも
あたたかいのだろうか、甘い蜜よりも
苦いものに、このこころを浸したいと
思えたときにはもう遅かった

一輪挿しにはまぼろしですら
花は咲かない、からの磁器は耳を吸いつけ
羽音は吸い込まれ、耳鳴りだけが返される

蜂蜜は女王蜂に捧げられるとしたら
ぼくが追いかけていたのは
花ではなく女王蜂の面影だったのか

蜂に……

朝の陽に焼かれて蜂は
ベランダで死んでいた
女王蜂がいない養蜂箱は
死んでいる、耳鳴りだけの部屋
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