誰かが誰かを呼んでいる/こたきひろし
誰かが誰かを呼んでいる
しきりに名前を呼んでいる
しかし
その声は辺りの喧騒にかき消されて
落日の空の彼方に吸い込まれてしまう
なにも知らない子供らは
何者かに
何処かわからない遠くへさらわれて
何かを知ってしまった大人たちは
絶えず得たいの知れない不安に脅えなくてはならないのか
忍び寄ってくる黄昏
すり寄ってくる夕暮れ
そして
沈んでいく夜の闇へ
俄に激しく降りだした雨は
勢いと激しさを増し続けて
世界はたちまち洪水に飲み込まれ
なすすべをなくし
それでもヒトは生きるすべにすがり
瞬きの間に
魚へと
魚類へと
後退をして進化した
筈がない
戻る 編 削 Point(3)