最後の砦/悠詩
 
戦士は荒れ果てた野にひとり立っていた
大振りの剣を脆弱な杖に窶しながら
脆弱でも杖がなければ歩くことは叶わず
勲章にもならぬ全身の傷に耐えることはままならず


敗戦の末に歩いた夜の闇は
己という恥辱を己に思い知らせ
ただ帰還するためだけに歩く身を
ひっそりと嘲笑う



己を勇者と託けて出立し
後に残した砦には
慈しみをくれた両親と
愛すべき子供たちと
敬愛する師と
笑い合える友と
慰みに玩んだ猫と

戦士自身の未来




大振りの剣が杖としての侮辱に耐えかねた頃
自慰を求めた帰還が果たされようとする
黎明とともにさやかになりつつある
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