哀れな英雄/Giovanni
哀れな英雄は
金属質な黒い体を
ますます黒くして
冷たく硬くなってゆく
さっきまで
大きな夢の英雄は
馬にまたがり剣掲げ
青白の空背に睥睨する
そんな姿を見ていた
はずなのに
ああ
何故彼は動かない
栗色の躍動 戦馬を駆って
何故彼は戦わない
どんどん
冷たく硬くなってゆく……
空がこんなに高いのに
彼が哀れに見えるのは
彼が頭に掲げた星のせいなのか
それともただ私が悲しいからなのか
アントニオ・ホセ・デ・スクレ
遠くアンデスを越えた
この小さな町で
いるように思えても
もうどこにもいない
哀れな英雄の名を
何度か独り言ちた
驟雨が来る
雷が鳴る
旅の心が濡れてゆく……
※アントニオ・ホセ・デ・スクレ……
南米の解放者シモン・ボリバルの部下にして友人、かつ同志。
アヤクチョの戦いで、スペイン王軍のホセ・デ・ラ・セルナ
(チェ・ゲバラの先祖)に勝利し、ペルーの独立を決定的に
した。
戻る 編 削 Point(4)