やわらかな傷跡/梓ゆい
箸で摘まんだ骨の欠片。
これは
私の頭を撫でた父の手。
たった今
父は抜け殻となって帰ってきた。
広い部屋に佇む母と娘たち。
炎の熱だけが
冷え切った両手を撫でまわす。
「形が、綺麗に残ったね。」
妹の胸の内は
安堵なのか
諦めなのかは解らない。
骨を染めた緑は
棺に入れた花と葉っぱと茎の色。
それは
母の頬を濡らした涙の跡にも見えた。
呼吸をするたびに
心の中を覗かれそうで
息を止めるだけ。
死ぬ間際に抱きしめた父の身体は
子供みたいに軽かった。
繋いで歩いた手の暖かさを
かたく冷たい首筋の感触を
喪服を脱いだ瞬間に思い返す。
真珠の首飾りに落ちた塩辛い涙
微笑む遺影が私を慰めている。
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