水(断片)/kajitsu
ち葉のようにいつでも水には無防備でありたい。
***
頁を広げて浜に打ち上げられていた本を、鳥にしようか、未だに迷っている。
夜空よりも海の方が暗いから、
この喉は
手のひらなんかよりも闇を知っていて、
「うん」
「君は」という言葉たちが、
そこから無事に生まれて来てくれてよかった。
(冬なのに、夏の匂う午後だ。
どこかで波の音もしている。あそこの陽のさす丘で、
穏やかに裏返ってくる。ようやく、この日に帰ってきたよ。)
***
山籠りをする初老の男性が、
「こんな雨は歓声に聞こえるんです。」と、
森の中で話しかけてきたのは夢だったけれど、そんなふうに聞こえたことなんてわたしはなかった。
空は、月が滲んでいた。
戻る 編 削 Point(4)