まどろみ/十一月の失敗作
 
気づくと森に向かう途中
緑の中赤い屋根の家が一際目立っていて
わたしは夢中でシャッターを押す

何度撮ってもぼやけて写らないその家が神秘的だったけれど
なぜかすんなりとそれを受け入れたのが不思議だった


気づくと森の奥
夜が更けた世界では
足に絡み付く泥を地面から這い出る無数の手のように錯覚する


「悪魔は口笛が得意」


いつものタイミングで声がする

もうすぐ連れ去られることを知っている


緑の香りが濃くなってきたのを感じ
息を深くする


「悪魔はくちづけの時だけやさしいの」


何度も聞くこの台詞


わざと目を合わせてか
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