けだもの・部屋/石村
けだもの
ひとの声がする
空がなく
土もない
紙の色の月がうすく照らす
このわづかな世界に
やさしく
神々しく
いつくしみ深く
ひとの声がする
《祈りなさい》
《目覚めなさい》
《愛しなさい》
うるさい
わたしはけだものなのに
(二〇一八年十月二十三日)
部屋
昨日まで、うつくしいひとが座つてゐた部屋です。
きちんと畳まれた制服の上にオーボエが置かれてゐます。
文机には音楽の教科書がひらかれてゐます。
床下にはきつねがうずくまつて、まだ次の曲を待つてゐます。
お母さまが入つてきました。これからお掃除です。
きれいな月の、秋の夜です。
(二〇一八年十月二十九日)
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