血で血を涙で涙を汗で汗を/こたきひろし
 
彼女はイヤホーンを外さないから、聞こえる筈もなかった

私はそれ以上何も言わなかった
夕飯は食べ終わったし、風呂も入った
仕事の疲れは一応は
癒されたかもわからない

夫婦とは言え、もとは他人だ
確かに結婚して一年くらい、子供ができるまでは
男と女が一つ屋根の下でお互いの存在に刺激され、愛してるとか、一生離れたくないとか、よく口走ったものだ
でも
出産と子育てに忙殺されてしまうと、私はお金をせっせと運ぶだけの
でんでんムシムシカタツムリになっていた
専業主婦の肩書きをつけた彼女は母親になってしまい、
疲れているからを、言い訳にして度々背中を向けるようになってしまった

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