木に恋してた娘っ子/福岡サク
 
わたし 娘だった頃 夜歩くのが好きだった
公園の木に挨拶し 
のみならずこっそり名をつけて
木の肌に手を押し当てては 
そっと名前を呼びかけた
誰もいない真夜中ならば 
抱きしめたりもしたけれど
落ち着かなくて 照れてしまって
すぐに腕を解いてしまった
 
中央公園の柳は「緑」ではなくあえて「紅」
南公園の桜は「時」で 自宅の柊は「ホリイ」
通りすがりの野良猫に
名前をつけて愛でるよに
わたしだけの名で木々を呼ぶ 
夜歩くのが好きだった

両腕でそっと抱きしめたなら
つめたい樹皮のその下で 
ときめきながら樹液は流れる 
そう感じたは うぬぼれか?


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