恋文がバイクに乗って来たとは言えなくて/こたきひろし
 
繰り出した手段は
手紙のやり取りだった

そして
彼女はそれくらいなら、と軽く文通を受け入れてくれた

文通は一年近く続いたがあっけなく終わってしまった
しかし
どうしてもその理由が思い出せない
実はそこだけ記憶から欠落してしまっていたからだ
それは
忘れたいという
一途な思いにかられたせいだろうか

その頃私は手紙に執着していた
手紙のやり取りに執着していた

しかしながら
私が棲んでいたアパートの部屋に郵便受けは一つもなかった
だから
バイクに乗ってやって来る配達人は私の部屋のドアの隙間に手紙を差し込んで
去って行くのだった
それはまるで月光仮面のようだった
のかもわからない




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