恋文がバイクに乗って来たとは言えなくて/こたきひろし
 
その頃
私は手紙に執着していた

記憶の引き出しにしまってある
その頃という一定の期間には
時間の埃がそれなりに積もっていた

ある日
何となく引き出しの奥から探し出して
太陽の光に持ち出してみたくなった

かぶっていた埃を払いのけると
よみがえってきた思い出に
私はお久し振りと挨拶を交わした

その頃私は手紙に執着していた
便箋に手書きで文書を書いて封筒に入れ
舌で舐めて封印した

私が頻繁に手紙を書いて送ったのは
その都度返事の手紙が相手から返って来たからだった

その頃私は若かった
それなりに純粋で
それなりに孤独だった

けして悲しくはな
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