「春を待つ」/桐ヶ谷忍
 
雪が降っている感覚に、薄目を開けた
凍りつく湿度と、ほのかな光を感じる

雪の一片一片には
冬の陽がほんのわずか宿っているのだという
だから真白く淡く輝いているのだと
幼い頃、母が聞かせてくれた
地中深くに眠る自分のところまで
その感触が届くということは
地上はよほど吹雪いているのかもしれない

土に沁み込んできたつめたさは
いのちを氷らせる残酷さと
させまいとするような、光の温み

母の最期はこういうものではないかと思う
為す術なく亡くなるのを看取る苦悶と
死に際に浮かべられた精一杯の微笑のような
雪は、そんな両極を突きつけてくるようだ

思って、哂った
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